おもむきブログ

エモいと言うな、おもむきと言え

太子堂のジャムサンドが世界で一番おいしい

太子堂という、東京神奈川に強いお菓子屋さんがある。

いわゆる古き良き感のあるお菓子やおつまみ、珍味なんかがずらりと並ぶ店内はややレトロな感じもある。イメージとしては近所のお宅に遊びに行くときに持っていくちょっとしたおやつを買うのにちょうど良いお店。

その中で飛び切り光るお菓子が、ジャムサンドである。

 

taishido.shop-pro.jp

素朴なクッキーに挟まれた素朴なリンゴジャム。第一印象は素朴そのものなのに食べていくにつれ段々おいしくなるという魔法のようなお菓子だ。

サクッとした歯ごたえの後にくるジャムの粘り気。クッキーとジャムが混ざり合うほど湧き上がるマリアージュ。その魔力は1粒が小ぶりだからこそ、またもう一度その魅力を味わいたいという気持ちを駆り立て、気づいたら500gの袋を食べきっているという恐ろしい結末を呼ぶ。

目のつく場所に置いておけば、まだある、まだあると思いながら、とじわじわと指が近よってゆき、気が付けば500gを食べ終わっているのである。

この500gというのは市販のジャムサンドの最も大きい袋サイズであり、この量を食べるに収めるのであればまだ人間たる尊厳を持って生きることができる許しを得られる最大値である。一度の購入量がこれを超えれば、たちまちに”豚”という烙印を腹に刻まれることとなり二度と人前で薄着になることができない。

1袋の購入で済んだことに安心するのもつかの間、そこからまた1日の摂取量の上限ギリギリを攻めて食べ進めていくのである。この摂取量は自分の裁量に掛かっている訳だが、自分のルールとしては、ジャムサンドで満腹になる決定打を生まないという天井を設けている。

これはもはやルールと呼べるのだろうか。好きなタイミングでだらだら食べ続けていたいという暗喩とも取れるこの規則はしかし、自分の中の、人間としての大事な一線を守るためのデッドラインとなっている。かろうじて、満腹へ導くこの1粒に手を出さなかった自分偉い!と自賛することであたかも自分は努力しています感をかもしているのだ。この自賛をなくしたら、己自信で背中に”牛”という烙印を刻むだろう。

 

ここまで人間を狂わせるお菓子を、私は太子堂のジャムサンド以外知らない。もしあったとしたらぜひ教えてほしい。

そしてジャムサンド狂は絶対に自分だけではないという確信を持ちながら、自分以外の狂人にこの文章が届くことを、そしてこの悪魔教めいた世界に興味本位で近づく人が現れることを祈っている。